矢があたった大黒さま

大黒さん


昔ある所に、たいそうな長者がいて、広い畑と大勢の使用人を持っていました。


この長者は大変な金持ちでしたが、干した菜っ葉ばかりの雑炊を

使用人に与えて、朝から晩までくたくたになるまで働かせていました。




長者の毎朝の日課は、大黒様におまいりする事でした。

ある時、長者はいままでの倍以上も儲けようと、使用人を倍以上働かせることを決心しました。


使用人の食事も、米粒は少量で菜っ葉の量を


大盛りに増やした、うすい雑炊となりました。



そんなある朝の事、干してあった菜っ葉がめちゃめちゃに踏み散らかされていました。

怒った長者は、使用人が犯人だろうと決めつけ、

菜っ葉すら入ってない汁だけの雑炊を食わせました。

ところが、その後も菜っ葉は踏み散らされ続けました。


長者は犯人を捕まえようと、物陰に隠れて菜っ葉の入った大ざるを見張る事にしました。


夜も更けたころ、菜っ葉のざるに手をかける黒い人影が見えました。

長者が手にしていた矢を放つと、黒い影は「うっ!」と声を発し、その姿は消えてしまいました。

矢が当たったはずなのに、と、長者は不思議に思いました。


この事を大黒様に相談しようと、大黒様の前にやってくると


長者の矢が大黒様の胸に突き刺さっていました。

「あ、あの影は大黒様だったのか!」と驚いた長者は、

あまりの恐ろしさにそのまま気を失ってしまいました。


その間に、大黒様は蔵から千両箱と米俵を運び出し、


目を覚まして集まってきた使用人たちに分け与えました。



「仲良く分け合って、ここを立ち去るがよいぞ」と言い残し、


大黒様もどこかへ去っていきました。



4日後、ようやく目覚めた長者が屋敷を見渡すと

誰一人と屋敷には残っていませんでした。


その後、この長者の屋敷は人手に渡り

長者はすべてを失って、一人どこかへ行ってしまいました。


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塩が無くて困っていた村人たちのために、塩を手配した大黒さまの話

大黒さん


昔、川内の泰平寺には、伝教大師が作ったという大黒天という木像がありました。

ある時、この村一帯で塩が乏しくなり、

毎日食べる味噌や醤油もつくる事ができず、村人や泰平寺の人たちは大変困っていました。


塩がないと料理も美味しくできないし、お寺の炊事係の小僧さんが

大黒様に「座ってないで塩でも持ってきてください」と、小言をいいました。



あくる日、この大黒様が無くなりました。


寺では盗まれたんじゃないかと大騒ぎでしてみんなで探しましたが、

結局大黒様は見つかりませんでした。

一週間ほどたったころ、塩を山ほど積んだ船が甑島(こしき)からこの村にやってきました。

切羽詰まった時に塩が届いたので、村人たちや小僧さんたちは驚きました。


「なぜに塩を持ってきたのですか?」と尋ねると、船の人夫(作業員)たちは


数日前に泰平寺のお坊さんがこしき島にやって来て

一刻も早く塩を持って行って欲しいと頼まれたと言いました。


しかし、そんなお坊さんなど、誰も心当たりがありませんでした。

その時、ふと炊事係の小僧さんが仏壇のところへ行ってみると

無くなっていた大黒様がちゃんと元の位置に座っていました。


きっと大黒様が、塩がなくて困っていた

村人たちのために、甑島へ行って頼んできたのでしょう。


この事を知った村人たちは、この大黒様をいつまでも大切にまつり、

いつしか「塩大黒天」と呼ぶようになりました。

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